
参加のきっかけ、はじめの取り組み「まず会社の存在意義の定義から始めて、具体を考える」
―DYNAに参加したきっかけを教えてください。
松山:
DYNAに参加する前は、団体の共同求人の企業展に出展していました。しかし、年々参加学生の数が減ってきていて、何か対策をしなければと思っていました。
DYNA参加の前年に、新卒の方を1人採用したのですが、それも7〜10年ぶりくらいでした。これまでは、無料の求人サイトに募集を掲載して数件応募があったくらいで、あまり力を入れて採用活動を行っていませんでした。
―DYNAではどのような取り組みを行いましたか。
柴田:
まず会社の「存在意義」を考え、定義しました。DYNAの伴走ディレクターによるワークショップの中で、「自社の強み」を皆で書き出した回があったのですが、その後も自分たちで集まって、「こうなりたい」「こうしたい」という像を決めていきました。
松山:
楽しい時、嬉しい時、自社のいいところ、やってみたいことを社員で何回か集まって出し合いました。存在意義の案として「食卓を豊かに」「スパイスによって全ての人に幸せを」「スパイスで笑顔をつくる人を応援」「困っている人のサポート」「世界の料理のレベルアップに貢献」……等々のことばが挙がっていました。
それを私が『スパイスの魅力で食卓を豊かにしたい全ての人を応援します』という一つの文にまとめました。
―出来上がった「会社の存在意義」は、どんなところで活用されていますか?
松山:
採用の際、社員に対して話をしたり、会社が10年後どのようになっていたいかを表した「10年ビジョン」でもこの文言を使っています。
柴田:
新卒採用の際、採用するかしないかで迷った時に、会社の存在意義に共感してくれる人かどうかを指針として、立ち戻るようにしています。
松山:
中途採用の際には、「普段お料理をしますか?」「外食は好きですか?」「スパイスで何か興味があるものはありますか?」など、何かしら食に関する質問をしながら、食べることに関心がある人なのか、自らスパイスを使っていろいろな料理を作りたいと思うような人なのかを確認するようになりました。
取り組んだ施策①「インナーブランディング/新商品試食会」
―「会社の存在意義」をつくった後は、具体的にどのような取り組みをしましたか?
柴田:
まずは社内のメンバーが会社の価値や存在意義を感じられる必要があるということで、インナーブランディングの取り組みとして新商品の試食会を行うことにしました。
特に工場で働く人にとって、スパイスをつくる仕事が単なる作業としか捉えられていない現状がありました。自分たちがつくったスパイスがどんな味で、どんな場所で売られて、どのように喜ばれているのかを実感してもらうために、試食会を3回ほど開催しました。
松山:
営業の人は、お客さんと接する中で商品案を考え、新商品を生み出し、それがYouTuberやインスタグラマーに取り上げられて、世の中に発信され売れていく……と、仕事の楽しさややりがいを感じる瞬間も多いです。しかも、ただのスパイスではない、私たちにしか作れない複雑なものを作るので、利益率も良く、楽しく儲かる仕事をしていました。
一方で工場の人は、全然楽しそうじゃない。新商品の依頼が来ても「また面倒くさい仕事が来たぞ」というような反応でした。
林:
営業担当としては工場の人がどのような気持ちで働いているのかを課題に感じたことがありませんでした。工場見学にいらっしゃった伴走ディレクターやDYNAの運営メンバーの方から「面白い仕事をしている会社なのに、工場で働く人たちがあまり楽しそうではない」という感想をいただいて、「そう言われてみればそうだな」と驚きをもって気づかされました。
―試食会ではどのようなものを作ったのでしょうか?また、皆さんの反応はどうでしたか?
柴田:
一緒に商品開発をさせてもらっている、インスタグラマーさんのレシピで料理を作ったり、ジビエ料理や簡単に味付けできるスパイスを使ってパスタを作ったり、クラフトコーラ、スパイスカレー、ポップコーンにスパイスをかけて味比べをしたりしました。
会社の期末の社内イベントでは、たくさんの種類の料理を出しました。営業の方がライブで調理してくれたのも好評でした。皆「あれが美味しいね」「これがいいね」「こんな使い方されているんだね」など良い反応をしてくれました。
商品として売っているスパイスを皆で料理して食べることは今までなかったので、社員全員にとって新鮮な体験になったと思います。
林:
工場の方々に「皆さんが作ったスパイスがこう変わりましたよ、こんなに美味しくなりましたよ」と伝えることができたのは良かったですね。普段、営業と工場の方の間でのコミュニケーションはほぼなかったので。
松山:
工場の人だけでなく、営業の人でも、自分の売っているものは知っていても、他の人が売るものは全然知らなかったりします。皆で実際に食べながら、自分たちが作ったり売ったりしているものの良さを共有することができた機会でした。
これだけおいしくて、楽しめて、消費者の方にもたくさんリピートして買っていただけているということは、それだけいいものを作っているんだということを皆で確認できたと思います。


取り組んだ施策② 「社員が学び、専門性を高める/スパイス料理研究サークル発足」
松山:
試食会以外には、新しく「スパイス料理研究サークル」という同好会が発足しました。伴走ディレクターと話す中で、仕事以外の文脈で楽しみながら、ソースやカレーなどの料理を作ることで、スパイスが作られ使われる過程を知って追究する会議・クラブ活動があったらいいよねという話になり、発足しました。
―スパイス料理研究サークルとは、具体的にどんな活動をしているのでしょうか?
林:
1ヶ月を1ターンとして、月末にスパイスを使って何か作る、毎週それに向けて少しずつ調べたり準備をしたりしています。
これまでに作ったものは、ジンジャエール、ハリッサという北アフリカ生まれの唐辛子ベースの調味料、スパイスカレーなどです。今日もちょうどこの後スパイスカレーを作るのですが、数週間前から「そもそもスパイスカレーとは何か?」と勉強したり、休日に皆でスパイスカレーを食べに行ったりしました。
松山:
入社して間もない社員を中心に集まっています。特に事務職の方はスパイスを見たこともなくて、伝票として名前は知っているけれど、どんなものか、どんな味なのかを知らなかったりします。重さを測って調合するところを一緒にやってみたら、「こんなものが入っているんだ!」と驚いたり、「いろいろあってスパイスって難しいね、自分ではなかなか作れないね」など率直な声が聞こえてきました。
あるべき姿として、どの職種であってもスパイスに詳しいのが理想です。しかし、現状そうでないなら、サークルで楽しく学ぶ中で、皆で専門性を少しずつ身につけていこう、ということを目指しています。
取り組んだ施策③「SNSでの発信/入社前の認知」
柴田:
サークル発足後の変化として、サークルの活動をSNSで発信していたおかげか、2か月前に入ったばかりのパートの方がスパイスサークルの存在を知っていました。「今日、スパイスサークルの日だ」って話をしていたら、「あ、それインスタで見ました。一体何やっているんですか?」と聞かれました。それをきっかけに、「実はこういう活動していて」と説明するということが実際に起こりました。
中途採用の面接をしていると「インスタを見ました」という人がほとんどで、SNSを見て、社内の雰囲気を入社前から知っている方が多いです。
松山:
今ちょうど、3ヶ月で6名採用しようと掲げているのですが、もう5名決まっています。しかも内定を出してお断りされることもほとんどないです。これもSNSの影響の部分もあるかもしれません。
―SNSはどなたが更新しているのでしょうか? また、DYNA参加の前と後で、発信する内容に変化があったのでしょうか?
林:
新卒1年目の営業の女性社員がインスタグラムの投稿を担当してくれています。スパイスサークルにも入って活動してくれている方です。
松山:
インスタグラム自体は2022年5月からやっていますが、はじめは新規試作の受付や、開発中の自社ブランド、スパイスを活用した料理等、より営業的な内容が多かったです。
DYNAに参加して試食会やサークルを立ち上げてから、その様子や社内の他の動きも発信するようになりました。スパイス料理研究サークルの活動や、社内向けスパイスセミナー、組織力向上・社内勉強会の様子、社員旅行、花見、入社式、採用情報、会社説明会……などなど。
結果的にそれが社外の人の目に触れて、「なんだか分からないけど、楽しそうなことをやっているようだ」という印象をもってもらえているのかも知れません。SNSで社内の雰囲気を知ってもらう中で選んでもらえているのかなと思っています。


成果と課題「同じ目線になれる3人のチームができたこと」
―DYNAに参加する中で得られた成果、気づきや学びはどんな点ですか?
松山:
DYNAを通じて林さんと柴田さんと共感するものができて、同じ目線になれたと感じられること、協力体制を作れたことが成果ですね。
先日、林さんとマルシェに出た際、「こういう場にこそ、ほかの社員も連れて来て、ユーザーさんの質問を直接受けて感じてもらいたいよね」という同じ意見が自然と出てきました。社員がお客さんに直接売る経験もして、分業せず皆で一緒にやっていきたいという思いを共有できていると感じます。
私一人が思っていても進めることは難しいですが、味方がいると大きく進められる。まだまだ味方が少ないですが、最低でもこの3人がチームとなって、「スパイスの魅力を皆に広げていこう」と思っています。ここから社内全体にこの意識を広めていきたいですね。そのためにも社内への発信をもっと強化していきたいです。
林:
DYNAのワークショップで、「パーパス(=自社の社会的な存在意義)はなんですか」と問われた時、私は答えられなかった。「あ、これが自分たちの最大の壁かな」と思いました。その後『スパイスの魅力で食卓を豊かにしたい全ての人を応援します』という存在意義の一文が完成して、山を乗り越えた感覚でした。
試食会やサークルなどの個別のインナーブランディング施策は、この存在意義から見れば枝葉です。存在意義に照らして、「採用をこんなふうにしたい」「これを理解してくれる人がいいな」と繋がって、「社内でも改めてこれを大切にし続けたいな」と具体的な取り組みが生まれてきました。とても良い機会をいただけたと思っています。
柴田:
私はもともと総務で、社長から言われて採用ブランド構築に参加するとなった時、正直「私ですか」と最初は思っていました。
社内向けの仕事しかしていなかったのですが、これをきっかけにどんどん外に行くようになって、他の会社さんも同じ悩みを抱えていると知ったり、他の会社で悩んでいたり苦戦したりしていることでも、自社ではできていることがあると気づきました。「うちの会社ってこういうところすごいな」と、外に出ることで会社のいいところを改めて感じました。
この気づきも、より多くの社員と共有できるといいなと思います。スパイスサークルももっとメンバーを集めたいのですが、皆に興味あるのかが分からない部分もあるので、社内に対する発信を増やしていきたいです。
今後の展望 「目指すは、採用しなくていい状態」
―最後に、今後ムアー食品の採用活動において、どのようなことを目指していきたいですか?
柴田:
究極を言えば、人を採用しないようになりたいです。今いる社員が定着して、人を採用しなくていいくらい、離職率を低下させられたらいいなと思います。工場を拡張するであったり、新規事業を興すなど、ポジティブな理由で採用をするような状態になりたいですね。
今は人が急に辞めて、現場が忙しくなって大変だからとバタバタ募集をかけて、採用するというサイクルになってしまっているので、それを打開したいです。
林:
伴走ディレクターも仰っていましたが、募集広告を出さなくても、「ここで働きたいです」と言ってくれた人を面接して、入っていただくかどうかを決められるぐらいになったらいいですよね。
インナーブランディングをやっていく中で、その魅力が外にも溢れ出て、そこに興味を持って食いつく人が出てきて、実際に門を叩いてくれるといいなと。そこまでになれば、当然、離職率も下がっているだろうし。
この仕事が好き、業界が好き、商品が好き、そんな人が集まって、もっとスパイスの魅力を広めるために一緒に働いている。そんな状態になりたいですね。今、SNSの内容も変わり、応募者の目にも留まっているようなので、これを地道にやっていくことの延長かなと思います。
松山:
目標はお二人が言ってくれた通りです。DYNAに参加したことで、会社として今後取り組まなければならないこととか、採用だけでなく会社全体として良くなっていくために何が必要かを考えることができて、変わっていかなきゃと思えたので、こういう活動にはまた参加したいですね。
社内にいてお客さんと接しているだけでは、このような視点で物事を考えることがなく、会社も成長、成熟していかないと思います。毎年は難しくても、何年かに一度はこうした採用ブランディングを見直す取り組みにまた参加したいと思います。
会社の存在意義を言語化し、インナーブランディングのための取り組みを行って、社外へ発信することで、社内にも採用にも変化の兆しが見られるムアー食品。自社の価値や仕事を俯瞰して見つめることで、進むべき道が拓けていく様子が印象的でした。取り組みの継続により、働く人の喜びと商品を手にする人の喜びの両方が今後も広がっていくのが楽しみです。