DYNA|名古屋市中小企業採用ブランド構築支援プロジェクト

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2025.03.28

『看板で「!」をつくろう。』―驚きと感動を届けるミライベクトルの採用ブランド構築 (株式会社ミライベクトル)

名古屋市の中小企業採用ブランド構築支援プロジェクト「DYNA(ダイナ)」は、キックオフセミナーやワークショップ、そして専門家(*)の伴走支援を通じて、市内中小企業者が採用ブランド構築に取り組む実践型プロジェクトです。

今回は第2期(2023年10月~2024年9月)の参加企業として自社の採用ブランド構築に取り組まれた、株式会社ミライベクトル(以下、ミライベクトル) 代表取締役の大平氏にお話を伺いました。

株式会社ミライベクトルは、名古屋市を拠点に看板製作・施工を手掛ける企業です。創業以来、建設業界における視認性とデザイン性を兼ね備えた看板づくりを追求し、店舗や商業施設、企業のブランド発信を支えてきました。

建設業界全体の人材不足に悩まれる中、職人の採用に課題を持っていた同社。従来の求人媒体を活用した採用活動では十分な効果が得られず、新たな採用戦略の必要性を感じていた大平氏は、名古屋市が主催するDYNAに参加し、採用ブランディングの強化に取り組むことを決意します。

この1年間で、ミライベクトルの採用活動にどのような変化が生まれたのか。DYNAを通じて得た知見と、実際の取り組みについてお話を伺います。

 

*専門家

・アドバイザー:経営や採用、コミュニケーションの課題に対し、専門的なフィードバックと助言を行う。

・伴走ディレクター:企業の採用ブランド構築を支援し、計画作成から進捗管理、課題解決までを共に行う。

DYNA参加のきっかけ——建設業界の人材採用の難しさと向き合う

―DYNAに参加したきっかけを教えてください。

大平:建設業界では、特に職人の採用が非常に難しい状況が続いています。弊社も例外ではなく、なかなか応募が集まらないという課題を抱えていました。就職情報サイトを活用し、広告を出したり、自社採用ページを作ったりと工夫をしてきましたが、目に見える成果には繋がっていませんでした。

そんな中、団体の広報を通じてDYNAの存在を知り、「何か新しい視点で採用に取り組めるのではないか」と思い、まずはワークショップに参加してみました。正直なところ、最初は「何かヒントが得られればいいかな」くらいの軽い気持ちでしたが、ワークショップに参加するうちに「採用ブランドの構築には、会社の在り方そのものを見直す必要がある」と強く感じるようになりました。

 

―人材採用に関する課題が大きな動機だったのですね。参加前の採用活動は、どのように行われていましたか?

大平:一般的なやり方でしたね。採用サイトを作り、求人広告を出し、できるだけ費用対効果の高い方法を探していました。ただ、いくら広告を打っても、「会社に入りたい」と思わせる魅力が伝わっていないのではと感じていました。社員数も多くない中で、専任の採用担当もおらず、私が兼任している状態だったので、より戦略的に進める必要があると考えていました。

 

―DYNAに参加されたことで、何か新たな視点を得ることができたのでしょうか?

大平:はい、まさにそこが大きな収穫でした。「採用を成功させるには、まず会社の中身を変えなければならない」ということに気づいたのです。

組織改革への挑戦——トップダウンからボトムアップへ

―DYNAのプログラムに参加されて、具体的にどのような取り組みを行われたのでしょうか?

大平:まず、会社の組織風土を見直しました。これまでのミライベクトルは完全にトップダウン型の組織で、経営側が決めたことを社員が遂行するというスタイルでした。しかし、それでは主体性が育ちにくいと考え、ボトムアップの文化を育てるための取り組みを始めました。

 

-具体的には、どのようなアクションを取られたのですか?

大平:最初に取り組んだのが、毎月の全社会議の実施です。どうしてもこの業界的に現場仕事がメインになってくるので、社員全員が集まる機会はほとんどなかったのですが、あえて対話の場を設けることで、社員の意見を引き出すことを目指しました。実際にやってみると、初めはなかなか発言が出ませんでしたね。「本当に意見を言っていいのか?」という雰囲気もありました。

 

-それが変わっていったのは、何かきっかけがあったのでしょうか?

大平:ワークショップの実施が大きかったです。社員が主体的に意見を出し合えるように、カードを使った対話型ワークショップを行いました。社員全員が参加し、役員はオブザーバーとして見守る形を取りました。その結果、普段あまり発言しない社員からも意見が出るようになりました。

 

社員主体のタグラインづくり——『看板で「!」をつくる。』

―『看板で「!」をつくる。』というタグライン*が生まれたと聞きました。どのような経緯で作られたのでしょうか?

*タグライン:企業のアイデンティティ・想いを短く、わかりやすく伝えるためのフレーズ

大平:ワークショップの中で、社員が「うちの会社って何を大事にしているんだろう?」と考える機会を作りました。そこで、「驚きや感動を生み出すような仕事をしたい」という共通認識が生まれたんです。伴走ディレクターの方のアドバイスより、ミライベクトルの強みや価値を発信するためのタグライン・ボディーコピー(タグラインの詳細を紹介する文章)を作成しようということになりました。

 

-実際の言葉として決まるまでに、どのようなプロセスがあったのでしょうか?

大平:タグライン・ボディーコピーを作成するブランディング担当として、営業と制作から1名ずつ計2名の社員を選抜しました。彼らを中心に作成を行うことで、インナーブランディングにも取り組みたいと思ったからです。

始めに、DYNAのアドバイザーの方に採用ブランディングについての勉強会を実施していただきました。採用ブランディングのプロセスなどの基礎知識を学び、採用ブランディングについての認識を合わせました。続いて、ミライベクトルとはどんな会社なのか、自分たちはどういったことを大切にして普段仕事をしているのかを発散する会を実施しました。自分は敢えて席を外し、社員の素直な意見が出るようアドバイザーとDYNA事務局にフォローいただきながら、約2か月に渡ってじっくり考えました。

 

-その2か月間は具体的にどういったことをされたのでしょうか?

大平:ムードボード(アイデアを視覚的に表現するためのプレゼンテーション)を使いながら、顧客視点の意見や自分たちが何を誇りに感じて仕事をしていきたいかといった想いの発散を実施​しました。

 

 

 

―出てきた意見を要素分解して、大元のミライベクトルらしさを抽出していったのですね。

大平:はい、その発散会で出た内容を基に、DYNA運営事務局にワーディング(目的のために最も適した言葉遣いや表現)をしていただきました。ブランディング担当と度々打ち合わせを行う中で、ミライベクトルとして大切にしている要素が見えてきました。この要素を基に、再度ワーディングを行い、最終的に3つのセンテンス候補ができました。

〇センテンス候補

・豊富な知識と万全な準備で、盤石な環境を志す​

・現状に満足せず腕を磨き上げ、培った技術を提供する​

・実直な職人が生み出す強く美しい仕上がり

このセンテンスを基に、DYNAで紹介いただいたコピーライターにタグラインの制作を依頼し、結果「看板で「!」をつくる。」というタグラインが完成しました。

 

-『看板で「!」をつくる。』素敵なタグラインですね。このタグラインにはどういった意味が込められているのですか?

大平:”看板でインパクトのあるすごいものをつくろう”という意味が込められています。具体的に言うと、「!」には驚きや感動、インパクトの強さを表現する意図が込められています。看板は単なる表示板ではなく、人の目を引き、驚きやワクワクを生むもの。そうした理念を社員全員が共有し、ものづくりに活かしていこうという想いを反映しました。

DYNAでの課題と学び

―DYNAに参加する中で、何か特に難しかったことや、ぶつかった壁はありましたか?

大平:一番難しかったのは、従業員の意識を変えることですね。これまでトップダウンの組織だったので、社員たちが「自分たちで考えて動く」ことに慣れていませんでした。意見を出す機会を作っても、最初はなかなか発言が出てこなかったんです。

 

-その状況に対して、どのようなアクションを意識的に行われましたか?

大平:まずは「とにかく対話の場を増やすこと」を徹底しました。社員が話しやすい環境を作るために、会議の進め方を工夫したり、ファシリテーションを強化したりしました。また、全員がフラットな立場で話せるように、役員はあくまでオブザーバーに徹するなどの仕組みを作りました。

 

-それを続けたことで、どのような変化がありましたか?

大平:少しずつですが、社員が主体的に意見を出すようになり、仕事に対する意識も変わってきたように思います。例えば、会議で出たアイデアをもとに、社員自ら新しい取り組みを提案してくれることが増えてきました。

 

-この1年間、試行錯誤されながら様々な取り組みをされたと思うのですが、どのような成果を感じていますか?

大平:採用の成果という点ではまだ道半ばですが、社内の意識は大きく変わりました。社員たちが主体的に発言し、会社の方向性を一緒に考える文化が根付きつつあります。タグラインについても、社員一同気に入っているみたいですので、社員の共通認識をうまく表現できたタグラインを作れたことは非常に大きな成果だと思います。

 

-最後に、今後の展望についても教えてください。

大平:現在、タグラインを活かしたビジュアルアイデンティティの刷新を進めています。ウェブサイトやユニフォーム、名刺など、すべてのデザインを統一し、社内外に一貫したメッセージを発信できるようにする予定です。また、営業ツールや販促物にも積極的に使用し、お客様にもミライベクトルの価値を伝えていけたらと思っています。

DYNAのプログラムを通じて、ミライベクトルは単なる採用戦略の見直しではなく、採用を考える上でベースとなる会社の在り方、「自社らしさ」を見つめ直し、その結果『看板で「!」をつくる。』というタグラインが生まれました。このタグラインは、社員全員が自分たちの仕事に誇りを持てる環境を作りたいという想いの結晶です。今後、この取り組みがさらに発展し、採用活動だけでなく、企業ブランディング全体に良い影響をもたらすことが期待されます。

Intervieweeインタビューイー

大平典男
株式会社ミライベクトル 代表取締役

屋外広告会社で15年間勤務する中で、様々な課題解決に貢献したいと考え、中小企業診断士の資格を取得する。さらに経営学を学び、社会に貢献しようとグロービス経営大学院大学に入学。大学院在学中に中小企業診断士として独立するも、さらに多くの企業の課題解決を目指し、2015年に株式会社ミライベクトルを創業する。