
採用ブランド構築のために取り組んでいる施策①「社長や社員の想いが伝わる採用サイトの構築」
-昨年のDYNA参加中には、会社の強みや欲しい人材の言語化、経営理念のステートメントの作成に取り組まれたかと思います。プログラム後にはどのようなことを行いましたか?
浅野:今年最大の取り組みは、採用専用のサイトを作ったことです。(フォルマント・テック採用HP)それまではサービス利用者向けのサイトはありましたが、求職者をターゲットにした内容ではありませんでした。事業所ごとに別々のサイトを立てていて、会社として統合したものはありませんでした。
木全:以前のサイトにも求人情報はありましたが、勤務時間や給与など事務的な内容しか載っていませんでした。条件や待遇だけでなく、会社全体としての僕らの想いや考え方を求職者に知ってもらう必要性を感じていました。
浅野: DYNAを経て私たちは何者なのかを考え、「人と人が響き合う」というステートメントができ、どんな人に来て欲しい、どんな人が向いているかを言語化することができました。この積み重ねを採用専用のサイトにまとめようということになりました。
木全:理念や考え方に共感する人が応募できるような入り口を作ることができました。
採用ブランド構築のために取り組んでいる施策② 「ターゲットを明確に設定する学生インターンシップ」
―昨年のインタビューでは、インターンシップに注力していきたいと仰っていましたが、その後インターンシップの実施状況はいかがですか?
浅野:インターンシップは、5日程度で現場の仕事を体験してもらう短期のものと、1ヶ月程度で会社の経営の支援に繋がる仕事をしてもらう中期のものの2種類を用意しています。
現場の仕事は5日、長くても2週間くらいあればどんな動きや働き方をするか想像がつくので、1ヶ月程度の中期インターンシップでは、新規事業アイデアや、会社のSNS運用を考えることをしていただきます。
今年の中期インターンは、企業を紹介するWEBプラットフォームに掲載していただきました。インターンの内容が新規事業開発やマーケティングが主でしたので、福祉系の学部よりも現代社会学部や経営学部などの学生が多かったです。
来年度もインターンシップを実施します。次回は福祉系の学部生の参加を増やしたいと思っているので、企業から大学へ届く求人票を学生が検索できる就職システムに登録して保育系・福祉系の学生に情報が届くようにしています。大学や学部を絞った訴求をし、今年は現場の実務をメインで経験できるような内容を考えています。

採用ブランド構築のために取り組んでいる施策③ 「中高年層や外国人材の採用など、多様な可能性に賭ける」
木全:現在、訪問介護事業における50-60代の採用や、保育事業における子育てがひと段落した層の採用に力を入れています。新卒や20-30代社員に長く働いてもらうことばかりに執着せず、5年くらいの期間で働いてもらうサイクルを何回も回していくような戦略をとっていきたいです。
中高年層の場合、介護や保育現場の経験者も少なくないので、その強みも活かしながら採用や人材育成をすることは、経営側の腕の見せ所だと思います。中途社員の研修の工夫は今後考えていきたいところです。
浅野:また、2024年4月に中国籍の方が1名入社したことをきっかけに、外国人材採用にも前向きに取り組んでいます。外国籍の方が介護福祉の仕事に就くのは資格の面でハードルがあるのですが、1人でも働きたいと思ってくれる人がいるのなら、留学生向けの合同説明会等に参加して今後も採用活動を進めていきたいと思っています。

インナーブランディングのために行っている取り組み 「日常の些細なコミュニケーションの中で社内に理念を浸透させる」
-新しく入社された方に向けて、会社の特徴や想いをどのように浸透させていっていますか?
浅野:全社に向けて社長が会社の方針を伝える時間をとったり、研修を行ったりするような特別なことはしていません。日々の業務の中で都度伝えるようにしています。
ステートメント(人と人が響き合う)はDYNAを通じて得た最終的な成果物ではありますが、それを社員に覚えてもらうのがゴールではないと思います。この言葉にどのような意味が込められていて、どのような将来を描いているからこの言葉を選んだのかを共有することの方が大事だと思っています。
私たちの会社は、堅苦しい空気の中で理念を伝えるよりも、日々の職員同士のコミュニケーションの中でこまめに核となるワードを出していく方が合っている気がします。若い後輩たちに浸透させていくためには、アットホームな雰囲気の中で伝えていくのが鍵だと思います。
そのため、経営の業務にも関わり、社長と話す機会が多い中核人材が、現場で後輩と働く場面で、「フォルマント・テックって、こんないいところあるよね」「最近社長はこういうことを考えているんだよ」とさりげなく話すようにしています。
おそらく、後輩社員は「会社の方針は?」「会社のMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)は?」と聞かれても答えられないと思います。しかし、後輩たちも仕事に対する想いを自覚したり、ここの会社で働いていて楽しいと思う瞬間があったりするからこの仕事を続けてくれていると、日々関わる中で感じています。社長や中核社員の想いは少しずつ何かしらのかたちで伝わっていると思います。
採用ブランディングを行う心構え 「失敗を恐れず、PDCAを回しながら自信をもって未来に投資する」
―採用ブランド構築のための様々な取り組みを行う中で、一番大切にしていることは何ですか?
木全:失敗してもいいからやってみることを大切にしています。これまでは採用活動に対して消極的で、あまり予算を投じてきませんでした。
しかしながら、採用市場はもうそう言っていられる状況ではないという危機感をもっています。全国の有効求人倍率は1.25倍と出ていますが、実態よりも低く出ていると個人的には思っています。地域や業種、職種など細分化して見ていけば、福祉の業界、特に訪問介護はもっと倍率が高いはずだと考えます。人が来れば仕事が取れるというような業界なので、どこの業者さんも常に求人を出し続けていて、それもあって求人倍率を押し上げています。倍率の高いところで戦っていかなければならないので、求人に予算を投下するのか、給与水準を上げていくのかは、色々なデータを見ながら検討しています。
そんな状況下では、採用は当たるか当たらないか分からない、10回やって1回当たればいいくらいと捉えています。戦略を立てて取り組むには費用がかかりますし、うまくいかないかもしれませんが、それを理由にやらないで済む時代ではなくなってきました。働き手になってもらうことは、誰かに時間をかけて動いてもらうということなので、費用がかかるのはむしろ当然だと思うようになりました。
1回の取り組みが失敗したとしても、検証して学びに変えて、改善を繰り返したいと思っています。
浅野:私は採用担当として、「最後までやり切ること」が大事だと考えています。採用の仕事は、社長から運用を任される場合と、私から社長に提案して実行する場合があります。例えば、社長から就職情報サイトに載せる情報や記事を作成することを任されますが、定期的に更新したり、文言の修正、写真の変更などアップデートを重ねて検証したりすることが必要だと感じています。任された当初のやる気を継続して、同じ情報の繰り返しにしないことが次の課題です。
私から提案する取り組みも最近は増えてきているので、それらをもっと増やしていきたいです。
木全:採用に限らずPDCAを回すことを大切にしたいですね。とある人が毎日、「昨日の良かったこと」「昨日の課題」「具体的に何が課題か」「どうしたら改善できるか」を朝9時までにスプレッドシートに書いて、社員で共有する習慣を取り入れていると言っていました。お互いに見て、「あの人は今こういう課題に取り組んでいるんだ」「こういう課題で困っているんだ」と知り、他の人がアドバイスできる環境を作っているとのことでした。
そこまで丁寧に振り返れば、会社が悪くなるわけがないと思います。こういうことを当たり前にできるようになれば、会社として発展すると思います。小さなことですが、小さなことがきちんとできるような会社を目指したいです。
採用ブランド構築はどんな会社に必要か? 「企業成長につながる実践と共感」
-どのような企業にとって採用ブランド構築が必要だと思いますか?
木全:経営の視点では、企業の生産性を上げていきたい会社にとても有効だと考えます。今後、人件費が上がっていくのはやむを得ません。2020年代のうちに時給を平均1,500円まで引き上げるような話もあります。そうなると、会社の考えを理解して一緒に仕事ができる人を採用することがとても大事になります。共感のないまま雇用が始まっても、仕事もうまくいかなかったり、人が辞めて採用にさらにコストがかかる悪循環に陥ってしまいます。長い目線で企業の生産性を上げていきたい会社にとっては必要な取り組みだと思います。
浅野:現場の社員視点では、自分の仕事が楽しいと思っていて、この仕事を一緒にできる人を増やしたい人にとって意味があると思います。
私はDYNAに参加する前から、仕事に行きたくないと思う日はないくらい、この仕事が好きでした。DYNAでヒアリングしてもらうなかで、私が仕事に対して抱く想いを言語化できたり、「そんな想いで働いているなんてすごいですね」と言ってもらえて、さらにモチベーションが上がりました。
今の仕事が楽しいと思っている人こそ、その人の楽しい気持ち、モチベーションが共感を生み、会社のブランディングの出発点となって会社の成長につながると思います。
自分の会社が好き、この良さを誰かに伝えたいという想いを持っている人に、参加してもらいたいと思います。

-今後DYNAのような採用ブランディングの伴走支援事業に参加する企業に向けて、参加したからこそのアドバイスはありますか?
木全:まずは言われたことを素直に、愚直にやってみてください。それに尽きると思います。参加する前は知識はほぼゼロで、分からないことだらけだと思います。学んだことをやってみて初めて、「うちには少し違うかな」「この施策はうちに合っている」と見えてきます。やる前に選ぶのではなく、やってみて取捨選択していけばいいので、まずは学んだことを素直にやることが大切だと思います。
浅野:伴走支援事業に参加するとしたら、社長と他にもう一人、社員も参加することをお勧めします。信頼できる社員や経営のこと、現場のことを知っている仲間と一緒なら、実際に社内で何かやってみようとなった時にスピード感をもって取りかかることができます。社内の人を巻き込んで参加すれば、その人が強力な味方になってくれると思います。
木全:最初は連れられた社員は、「何のために? 何するんだろう?」と分からないかもしれません。それでも一緒に時間を過ごす中で想いが共有されていくので、2人以上での参加をおすすめします。
昨年DYNAを通じてステートメントの作成に取り組んだフォルマント・テックは、会社の強みや欲しい人材像を、採用専用サイトや日常のコミュニケーションを通じて社内外に浸透させています。
失敗を恐れずにPDCAを回しながら、長期的な視野をもって会社の成長に挑むフォルマント・テックのその後を、これからも追っていきたいと思います。