DYNA|名古屋市中小企業採用ブランド構築支援プロジェクト

Story

インタビュー

  • Top
  • Story
  • 変えすぎない勇気、磨き続ける工夫—「この人から買いたい」を目指して。パール金属が貫く“らしさ”を活かした人材戦略(有限会社パール金属)
2025.03.26

変えすぎない勇気、磨き続ける工夫—「この人から買いたい」を目指して。パール金属が貫く“らしさ”を活かした人材戦略(有限会社パール金属)

名古屋市の中小企業採用ブランド構築支援プロジェクト「DYNA(ダイナ)」は、キックオフセミナーやワークショップ、そして専門家(*)の伴走支援を通じて、市内中小企業者が採用ブランド構築に取り組む実践型プロジェクトです。 

今回は第2期(2023年10月~2024年9月)の参加企業として自社の採用ブランド構築に取り組まれた、有限会社パール金属 代表取締役 堀口武人氏にお話を伺いました。 

有限会社パール金属(以下、パール金属)は、名古屋市に本社を構える生産技術総合商社です。愛知県を中心に、自動車関係のサプライヤー向けに道具や設備、機械などを卸しており、ものづくりの現場を支える役割を担っています。2012年に新卒採用をスタートして以降、有限会社パール金属では「性別を問わず働きやすい会社づくり」を掲げ、制度や体制の見直しに取り組んできました。その結果、チーム営業体制や育児との両立支援などの柔軟な働き方が整い、女性営業職の比率が自然と高まっていきました。こうした姿勢は、学生やキャリアセンターからも「女性が活躍できる職場」として認知され、合同企業説明会では女性学生からの注目を集めるなど、職場としての魅力が一定の評価を受けることにつながりました。 

一方でその反動として、男性からの応募が減少し、男女比の偏りや定着率といった新たな課題にも直面することとなりました。さらに近年では、合同企業説明会での学生の集客数が減少し、従来の採用手法が通用しにくくなってきたこともあり、新たなアプローチの必要性を強く感じていたといいます。そうした中、パール金属は名古屋市主催の採用ブランディング支援プログラム「DYNA」に参加。自社の強みを見つめ直しながら、単に“トレンドに乗る”のではなく、“自社らしい採用”を磨き直す取り組みを進めていきました。この1年間で採用活動はどう変わったのか。DYNAでの学びや、実際に行った施策について、代表の堀口さんにお話を伺いました。

*専門家 

 ・アドバイザー:経営や採用、コミュニケーションの課題に対し、専門的なフィードバックと助言を行う。 

・伴走ディレクター:企業の採用ブランド構築を支援し、計画作成から進捗管理、課題解決までを共に行う。 

DYNA参加のきっかけ―多様な人材が活躍できる職場を目指して

―DYNAに参加されたきっかけを教えてください。

堀口:名古屋市からDYNAの案内をいただいたことがきっかけです。当社では2012年から新卒採用をスタートしましたが、最近は合同企業説明会でも学生の集客が減ってきており、新しい採用の方向性を模索しているところでした。 

もともと「男女問わず働きやすい会社」を目指して採用方針を掲げていたのですが、その結果、営業職の多くが女性となり、「女性が働きやすい会社」というイメージが先行するようになりました。その反面、男性の応募が減り、現在の社員構成は男性3名、女性7~8名というバランスになっています。 

女性社員が結婚や出産、配偶者の転勤などのライフイベントで離職するケースもあり、定着率や多様性の確保は大きな課題でした。そんな中で、採用ブランディングの強化と“男女どちらにも魅力を感じてもらえる会社”としての認知を広げる必要があると考え、DYNAへの参加を決意しました。

 

元々男女問わず働きやすい会社として、具体的にどのような取り組みをされていたのですか? 

堀口:当社では2012年の新卒採用開始当初から、営業スタイルを個人対応ではなく「チーム営業」に切り替えました。特定の社員だけが担当を持つのではなく、チーム全体でお客様をフォローできる体制です。 この仕組みは、育児や介護、出産などで一時的に仕事から離れることがあっても、周囲が支え合って業務を進められるという大きなメリットがあります。実際、この体制が女性社員の定着に大きく貢献しました。 

ただその反面、「女性が多く働く会社=男性が働きづらいのでは?」という先入観につながってしまうこともありました。実際に男性の応募は少なく、採用の偏りが課題になっていたのです。ですから、制度だけでなく、会社の“見え方”そのものを見直す必要性も強く感じていました。 

説明会の改革から始まった採用ブランディング―動画とリクルーターで学生の心をつかむ

DYNA参加後、どんな取り組みをされたのでしょうか 

堀口:まず、合同企業説明会でのアプローチを刷新しました。従来はパンフレット配布と口頭説明が中心だったのですが、それではなかなか学生の心に響かないと感じていて…。 

そこで、会社紹介の「1日密着動画」を社内で制作し、ブースで常に流すようにしました。出社から営業活動、帰社後の様子までを1分程度でまとめたもので、実際の仕事風景をイメージしやすくなるよう工夫しています。 

また、入社1年目の若手社員にリクルーターとして説明会に同席してもらい、学生と年齢の近い立場から話してもらうことで、ブース全体の雰囲気を和らげました。 

 

SNSでも発信されているそうですね

堀口:はい。「新入社員の密着動画」も撮影して、InstagramなどSNSで公開しました。リアルな社内の雰囲気が伝わるように意識しています。今後は社内制作と外部委託を組み合わせながら、質と継続性を両立していきたいと考えています。 

採用フローも学生目線に―“選ぶ採用”から“選ばれる採用”へ

採用フローの見直しについて、どのような工夫をされたのでしょうか? 

堀口:従来は説明会の後に4回の面接を実施していましたが、学生の負担や選考期間の長さが課題になっていました。そこで伴走ディレクターのアドバイスも受け、選考回数を3回に短縮し、スパンも短くなるよう調整しました。 

また、選考の途中で「営業同行体験」を取り入れ、学生に実際の業務の雰囲気を体感してもらう機会を設けました。これにより、入社後のギャップを減らし、よりマッチした人材を採用できるようになったと思います。 

 

マッチングを意識された採用というのは、どのようなことを意識されたのですか? 

堀口:そうですね。特に意識したのは、「企業が学生を選ぶ」のではなく「学生に選んでもらう」採用へと視点を切り替えることです。そのうえで、入社後の成長や定着を見据えて、「今できるか」よりも「どれだけ成長できそうか」を大切にしています。 

たとえば、面接では当社の企業理念である「この人から買いたいと言われる人になる」について、初回から最終面接まで繰り返し問いかけています。その中で学生の考えがどう変化していくかを見て、成長の兆しや価値観の深まりを重視するようにしています。 

 

-DYNAの伴走ディレクターとのやりとりで印象に残ったことはありますか? 

堀口: 最初の頃は、世の中のトレンドに合わせて「面接はもっと短く」「一気に多くの学生を集めて」などのアドバイスをいただくことが多かったのですが、正直なところ、当社にとっては少し違和感がありました。 

というのも、私たちはこれまでにも、少人数でもしっかり向き合い、1対1の丁寧な採用を続けてきたことで離職率も低く抑えることができていたんです。だから、最初は「全部変える必要があるのか?」という葛藤がありました。 

しかし伴走ディレクターとの対話で葛藤の深堀りを重ねる中で、「世間の成功事例が必ずしも自社に合うとは限らない。むしろ、今ある強みを活かした形でブラッシュアップすることが大切」という共通認識に至ることができました。これは大きな学びでしたね。 

 

-現在の採用フローは、どのような構成になっていますか? 

堀口:エントリー後、まず個別の会社説明会に来ていただき、その後1次面接、営業同行体験、最終面接という流れです。場合によっては追加で面談も行います。形式は「面接」ではありますが、実際は学生との対話を重視しており、学生の意見をしっかり引き出すスタイルをとっています。 

この流れの中で、学生には実際の社風や仕事内容を肌で感じてもらい、私たちもその人が「パール金属で長く働けそうか」を見極めていく。それが、お互いにとって最良のマッチングにつながっていると感じています。 

DYNAの取組の中で、多くの企業が「短期間で内定を出す」方向に動いている中、当社は「1対1の丁寧なマッチングを大切にする」ことで、独自の採用戦略を築けると気づくことができました。  

社員の声を活かすワークショップ―リアルな共感が学生に届く

採用ブランディングの中で、特に効果を感じた取り組みは何でしたか? 

堀口:社員全員で行った「ワークショップ」は、非常に大きな手ごたえがありました。もともと社内での改善活動として取り組んでいたのですが、DYNAの支援を受けるなかで、テーマを「採用」に絞り、社員のリアルな声を採用活動に反映させる目的で改めて実施しました。 

テーマは「仕事をしていて嬉しいと感じるとき」「自社の強み」「改善してほしいこと」の3つ。社員一人ひとりがポストイットに思いを書き出し、壁一面に貼っていく形式で、見える化して共有することにしました。 

その中でも特に多かったのが、「お客様から“あなたから買いたい”と言われたときが一番うれしい」という声です。これは、当社の企業理念でもある“この人から買いたいと言われる人になる”に深くつながっており、社員一人ひとりがその価値を日々の仕事の中で実感していることがよくわかりました。 

また、「うちはチーム営業なので、担当制ではなく3人で1社を見るから、休みも取りやすいし、属人化しない」といった体制面での強みや、「社長に意見が言いやすい」「風通しがよい」といった企業風土の魅力も数多く挙がりました。 

 

-そうした声をどのように採用活動に活かしていったのでしょうか? 

堀口: これらの声は、動画や説明資料の中に組み込んでいきました。たとえば、「1日の仕事の流れ」を紹介する動画では、ただ作業風景を見せるのではなく、こうした社員のリアルなコメントをテロップで入れたり、ナレーションに組み込んだりすることで、より“等身大の会社の魅力”が伝わるようにしました。 また、会社説明会でも社員のエピソードを盛り込むことで、学生が「ここで働く自分」をよりリアルに想像できるように工夫しました。パンフレットやスライド資料も「制度や待遇を説明するもの」から、「社員の体験や価値観が伝わるもの」へと変わっていったんです。 

 

 -社員の“共感の声”がベースにあることで、学生の印象にも残りやすいですね。 

堀口: そうなんです。実際に説明会で「動画を見て興味を持った」「社員の話を聞いてイメージが変わった」という反応も増えてきました。社員自身も「自分たちの言葉が採用に活きている」と実感できるので、社内の雰囲気もより前向きになってきたと思います。 

未来に向けた採用戦略―「共感でつながる採用」へ

今後の採用活動についての展望をお聞かせください。 

堀口:まず、SNSやWebでの発信は今後も強化していきたいです。特にショート動画やストーリーベースのコンテンツを中心に、社内と外部委託をうまく使い分けながら続けていく予定です。 

また、学校とのパイプをより強化していきたいと考えています。これまでは私1人で訪問していましたが、今後はOG・OBの社員と一緒に行くことで、よりリアルな話を伝えられるようにしたいと思っています。 社員と一緒に作る採用ブランディングを継続し、「働きやすく、成長できる職場」としての魅力を、より多くの学生に届けていきたいですね。 

 

 

DYNAへの参加を機に、有限会社パール金属は採用フローの改善や採用ブランディングの見直しを通して、「企業が学生を選ぶ」から「学生から選ばれる企業へ」という視点の転換に成功しました。チーム体制や社員の声を活かしたリアルなブランディングを通じて、今後も多様な人材が長く活躍できる職場づくりを進めていきます。 

Intervieweeインタビューイー

堀口 武人
有限会社パール金属 代表取締役

1992年、新規事業の起業を目的に、父が経営する板金部品メーカー・有限会社パール金属に入社し、機械工具部を立ち上げる。この時の思いが後に会社の「社是」(企業理念)となる。2009年に父の板金事業部を継承し、代表取締役に就任。2012年に初めて大学卒業の新卒女性2名を採用し、それ以降、毎年の新卒採用に取り組む。新しい社員がより活躍できる場を広げるために、事業領域を「機械工具商社」から、ものづくり現場の困ったを解決する「生産技術総合・代行商社」へと進化し、新たな採用にも力を入れている。