DYNA参加のきっかけ「応募者減少の課題と経営理念の浸透・活用法の模索」
―DYNAに参加されたきっかけを教えてください。
本山:DYNAに参加した2023年は、ちょうど翌年の代表交代を控えており、すでに外部のデザイナーを招いて、企業理念の再編やロゴの刷新など、ブランド構築に取り組んでいた時期でした。ただ、その“ブランドをどう社内に浸透させるか”という部分に課題を感じていたんです。経営層としては、理念や方向性をしっかり発信しているつもりでしたが、社員から自発的な発言や発信があまり見られず、理念がまだ十分に浸透していない、活かしきれていないという実感がありました。
そんな中で、名古屋市の支援事業としてDYNAの伴走支援が受けられることを知りました。代表交代のタイミングで多忙な時期ではありましたが、それでも「今こそ取り組むべきだ」と判断し、参加を決めました。実は数年前から、管理職を中心に経営指針書の作成を進めるなど、「全員参加型で経営を実施する」という機運は高まっていました。ただ、会社の“核”となる部分を言語化し、全社で共有するためには、何か一つ、判断基準となる軸が必要だと感じていました。
入社以来社員と対話を重ねて感じた想いと複数あったコンセプトやメッセージの中から共通項を見つけて、整理し整合性をもたせながらシンプルな形にまとめること。それが、より理念を活用しやすくするために欠かせないプロセスだったと思います。
―DYNAに参加する前は、採用活動の手応えはどう感じていましたか?
本山:徐々に応募者数自体が減少し、会社が理想とする人材に出会うことが難しくなっていました。
DYNA参加の約2年前は、5人の採用枠に対して応募者が3人しか来ない状況が続いていたので、採用を抜本的に見直したいと思っていたところに「採用ブランディング」の取り組みを見つけ、まさに求めていたものだと確信しました。

取り組んだ施策①「インターンシップとフォローアップの強化による採用の早期化」
―DYNAではどのような取り組みをされましたか?
本山:まずは、採用の早期化を図りました。企業理念を採用関連の資料や面接にどう落とし込むか、伴走ディレクターのアドバイスを受けながら改善を進めました。
DYNA参加前は、インターンシップから採用につながる例が少なかったので、内定までの流れを整理し、各ステップの目標値とスケジュールを定めました。
前年はインターンシップ後のフォローが不十分だったことが課題でしたので、インターンシップ後も継続して関わりを持ち、3月の解禁前に内定を出し切る方針に変更しました。また翌年は、アンケートに「内容が難しい」という学生の声がありましたので、ターゲットを未経験者に絞り、プログラムを見直しました。
-その取り組みにより、採用結果に影響はありましたか?
本山:参加者13人のうち3人を採用することができました。2025年4月入社の新卒の採用枠は5人なので、半数以上が2023年のインターンシップ参加者です。2022年はインターン経由では1件も採用に繋がらなかったので、大きな成果です。
-取り組んでみたことで直面した新たな課題はありましたか?
本山:フォロー体制を見直し3人の採用につながりましたが、2023年は私がほぼ一人でインターンシップを運営しており、私のスケジュールで日程が左右されてしまったり、私も今35歳なので、学生との年齢差による距離感があったりもありました。2024年のインターンは、若手社員を巻き込み親近感を生み出しながら、若手への教育機会としても活用しました。
-他の社員を巻き込むなかで感じた難しさや課題はありましたか?
本山:採用チームは4人で構成しましたが、全員エンジニアで通常業務と並行しながらインターンシップの企画立案を0から任せてしまったので、かなり負担が大きかったと思います。採用業務の中心は総務部が担い、他のメンバーは限定的な役割を持つ形にするなど、役割分担の改善が必要だと感じました。
ただし教育的観点では、部分的に関わるよりも全体を把握し、プロジェクトをやり遂げる経験が重要だと考えています。来年度は今年の経験を活かし、チームリーダーを立てつつ、新たなメンバーを巻き込んでいきたいです。
インターンシップ後のフォローにおいて応募者が会社の魅力を感じ、「ここで働きたい」と思えるようにすることも重要です。開発部のマネージャーなど責任ある立場の社員に面談をお願いするなどして、会社のブランディングを伝えていくことにも取り組みたいと思っています。
―DYNAで紹介される事例や他の参加企業の取り組みから、どんな気づきがありましたか?
本山:DYNAでアドバイザーや伴走ディレクターの話を聞いたり、他の事業者さんの発表を聞いたりする中で、自分では思いつかない工夫や方法を知ることができ勉強になりました。方法論だけなく、他の事業者さんが企業理念やコンセプトを作っている過程で社員をしっかり巻き込んでいる様子を知り、私も策定の過程からもっと巻き込めたのではないかと感じました。真似できるところを真似して、浸透させるフェーズで関わり方を変えていきたいと思いました。一人で進めるのではなく、社員をしっかり巻き込む過程で私の考えを伝えることが重要だと感じています。
取り組んだ施策② 「採用ページのブラッシュアップと企業理念の軸の絞り込み」
本山:企業理念の再編やロゴの再構築に伴い、会社ホームページの採用ページもブラッシュアップしました。弊社の企業理念には、『誠実・充実・結実』という「3つの実」という「Value」(大事にする価値観)があります。伴走ディレクターとの議論を経て、これを会社紹介や説明資料、座談会のテーマなどに展開して一貫性を持たせることになりました。
その結果、対外的な説明を自信をもって行えるようになりました。
-企業理念のブラッシュアップにはどのような方々が関わりましたか?
本山:私と総務部長、総務部社員に、伴走ディレクターが加わりました。特に私自身が説明しやすくなったことは大きな収穫ですが、伴走支援終了後、若手社員が会社説明をする際にも使っていて、採用に関わる人には浸透してきたと言えます。もっと多くの社員に経験してもらいたいです。


取り組んだ施策③ 「社員向けワークショップでインナーブランディングを促進」
本山:他には、社内の企業理念浸透に向け、若手社員を対象にしたワークショップも実施しました。目的は2つあり、1つは学生に近い視点から企業理念をどう伝えるかを考えてもらうこと、もう1つはアイデア出しを通じて理念に触れてもらい、浸透を図ることでした。
対象は入社5年目までの社員約12〜13名で、2グループに分けて実施しました。採用市場の動向や自社の現状を共有した上で、「インターンシップの内容をどうするか」をテーマに意見を出してもらいました。3時間の中で自社の強みや改善点を洗い出し、より効果的なインターンの提案につなげました。
準備段階では、私が企画を立て、伴走ディレクターからテーマ選びやブレスト方法、備品の準備など実務面のアドバイスを受けました。
-ワークショップを実際に行ってみて、どのような気づきがありましたか?
本山:社員が企業理念を理解して働いていることが分かりました。ワークショップ内で「エスクリエイトって、お客様に対して誠実だよね」「そういう姿勢を大事にしているよね」といった、企業理念で掲げているキーワードや考え方を踏まえた会話が聞こえました。「ものづくり企業の一番近くにいるパートナー」というブランドアイデンティティを意識したような声も上がっていました。企業理念を理解して仕事に臨んでいることが伝わってきてそれがとてもよかったです。
もう一つは、採用活動への協力者が見つかったことです。ワークショップに取り組む様子から、インターンシップの中の座談会や採用活動の仕事に意欲的に関わってくれそうな社員を見つけることができました。
一方で、意見の活発さやファシリテーションには課題も見えました。ワークショップを実施する前は、参加した社員からたくさん意見が出ることを期待していたのですが、チームビルディングやコミュニケーション、ファシリテーション能力の観点でまだまだ不慣れな社員も多く、期待していたほどは自由に活発な意見が出ませんでした。通常業務では仕事の知識で勝負がつきますが、ワークショップでは思考力や一般社会への関心などいつもと違った側面が明るみに出ます。社員の課題が顕著になったことは良かったと思います。
一回で完全なものを作ろうとするのではなく、何回か段階を踏むことで達成していく心構えが良いと思います。あまり高尚なものを求めて、普段考えたことがないことを問われると社員も困惑すると思うので、理想を見すぎず、適切なゴールを設定することが重要かなと思いました。
また、ワークショップを通じて部署を越えた横のつながりが生まれた点も収穫がありました。普段接点のない社員同士が対話する場を設けたことで、新たな関係構築にもつながっています。
さらにその後の取り組みとして、全社員を対象に「自分たちがワクワクする職業を名付ける」ことを目指したワークショップも実施しました。
自分たちの仕事の価値を再定義することで、より主体的に働く意識を醸成することが狙いです。年代別のグループに分かれてアイデアを出し合い、最終的には全社員で投票を行いました。その結果、新たな職業として「ITコンダクター」が誕生しました。
「ITコンダクター」は、“お客様や開発メンバーの中心としてプロジェクトの調和を保ち、成功を導く存在”という意味を込めています。
このように、自分たちのあるべき姿を言語化し、全社員で共有できたことは大きな成果でした。現在ではこの「ITコンダクター」という概念が、人事評価制度においてもエスクリエイトの“一人前”の理想像として位置づけられています。
取り組んだ施策④ 「OB社員と共に、市内の専門学校で個別説明会を実施」
本山:名古屋市内にあるソフトウェアの専門学校に対して学内で個別説明会を開かせていただきました。社員の中に学校の卒業生がいたので、OBを交えて資料内容や発信内容を考えた方がいいとアドバイスをいただき、実施していきました。
専門学校への個別の採用活動を行うことになったきっかけは、弊社がインターンシップとは別の機会で、夏の1ヶ月に普段の実務を経験してもらうことを目的に学生を受け入れていたのですが、そこで専門学校の就職課と繋がりができて話をしていく中で、個別説明会を行なっている企業さんがあることを知り、「ぜひうちにもやらせてほしい」とお願いして実現しました。
- 説明会では具体的にどのようなことを行なったのですか?
本山:個別説明会ではOB社員にも2人、管理職と若手の1人ずつ来てもらって、まず私が会社説明を行い、2人に『誠実・充実・結実』をテーマに実際の仕事ではどうなのかをパネルディスカッションしてもらってそれを学生に聞いてもらう形で行いました。伴走ディレクターのアドバイスで、「説明会後にそのまま選考を行ったらよいのでは」ということで、希望者に対してその場で一次面接を行いました。面接を待っている学生には、OB社員に残ってもらって座談会をしてもらいました。
面接は事前に予約してもらって、説明会を聞いた上で面接を行うとしていました。当日説明会を聞いて、面接を希望してくれる学生もいたので、急遽1名増枠をしました。私を含めて3人が面接官を行い、学生9人の一次面接をその場で実施しました。そのうち2人が最終まで進み、内定を出しました。辞退されてしまったので、結果的に採用にはつながりませんでしたが、来年も実施したいと思っています。
成果と今後の展望 「会社や社員を良くするプロセスを面白がり、理念実現に向けて改善につなげる」
-これらの取り組み全体を通して、得られた成果は何だと思われますか?
本山:採用の早期化やアピール材料の選定など、昨今の採用難に対応する施策を具体化でき、実際に25卒の採用は成功したことが成果です。
採用ブランディングを取り入れることの重要性を理解するだけでなく、実感を得られたことに大きな意味があると思っています。だからこそ、若手社員にも採用業務に時間を割いてもらいたいと考えるようになりました。企業理念は私が一つに取りまとめたもので、それを用いて会社や社員をアピールしていくことがブランディングですが、大切なのは、社員や会社を良くするプロセス自体を発信することだと思います。ただ単に、外に向けて良い印象を発信するよりも、アピールしたくなるものを作っていくことこそ重要であり、その過程が面白いと気づけたのが大きな学びでした。

-若手社員の方々はDYNAでの取り組みについてどのような意見をお持ちですか?
本山:業種・職種を超えたDYNAの参加事業者同士の交流企画に若手社員4名と共に参加しました。これを通じて、これまで社内にしか目を向けていなかった社員が、社外に目を向け、キャリアや会社の良さを再認識したという声がありました。インターンシップ強化の過程で、会社の強みを意識するきっかけになったと話す社員もいました。
-DYNAでの学びを踏まえて、どのようなことを行っていきたいですか? 今後の展望をお聞かせください。
本山:採用は、会社の魅力を伝える貴重な機会だと思います。インターンシップの改善をはじめ、面接の質を向上させるために、社員が企画段階から考え、受け身でなく主体的に動ける環境を整えていきたいです。
また、DYNAは「採用ブランディング」がテーマでしたが、今後は採用に限らず企業理念の実現に向けた取り組みを広げていきたいと考えています。既に育成や社内の業務改善など、会社の課題を解決するために部署横断のプロジェクトを立ち上げています。そういったところにもDYNAでの学びを生かし、会社としてのアピールをブラッシュアップしていきます。
採用活動を通じて社員の巻き込みや理念の浸透を進めてきたエスクリエイト。DYNAでの学びを活かし、今後は採用にとどまらず、組織全体の成長に向けた取り組みへと踏み出していきます。社員が主体的にブランドを体現できる環境づくりをどう進めていくのか。これからの展開に注目です。