DYNA|名古屋市中小企業採用ブランド構築支援プロジェクト

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2024.03.06

柔軟な思考に導かれた自社の「本当の採用課題」とは(中部ウエルボーリング社)

名古屋市の中小企業採用ブランド構築支援プロジェクト「DYNA(ダイナ)」は、キックオフセミナーやワークショップ、そして専門家が伴走支援することで、市内中小企業者が採用ブランド構築に取り組む実践型プロジェクトです。

第1期(2022年10月~2023年9月)に参加された中部ウエルボーリング社は建設業の中でも「地質調査」という非常に専門性の高い領域を手掛ける企業です。プロジェクトに参加されて感じた手ごたえや、参加後の採用活動や人材育成の現状を、中部ウエルボーリング社代表取締役佐藤永一朗氏、当時採用担当で現在は三重事業所技術部所属の宮川栞奈氏、そして総務部の片野有紗氏の3名に伺いました。

―自社の採用活動について、どのような課題意識をお持ちでしたか。

 

佐藤:

私が入社したのは2014年で、入社当初からすでに採用に関する課題意識は持っていました。当時20代は一人、30代は私のほかにおらず、40代も一人。あとは50代以上という状況で、これは採用をして新たに人を入れていかないと会社が立ち行かないのではないかと感じていました。

また、当社は土木を専門としている人の中でも仕事内容を知らない人も多い「地質調査」という狭い領域を扱っています。土木業界自体の志望者が減っている中で、自社のことを知ってもらう間口を広げたいという思いもありました。

 

宮川:

この業界自体の知名度が低いということもあり、そもそも地質調査業の情報を知りたいと思っている人たちをどう探すのか、その人たちに自社のことをどう伝えるのかというところにも課題を感じていました。

 

では、DYNAに参加を決めたきっかけを教えてください。

 

佐藤:

名古屋市からセミナーのお知らせをいただいて、DYNAのことを知りました。採用ブランディングという言葉や、それはどんなことをするのかというのはなんとなく知っていたので、ぜひやってみようと思い、1度キックオフセミナーに参加してその後本格的に参加を決めました。

―佐藤さんと宮川さんは伴走支援としてグループコーチングを受けられたそうですね。実際にコーチングを受けられていかがでしたか?

宮川:

とにかく「すごかった」というのを覚えています!(笑)コーチングは、コーチの方に話を聞いていただいて、少しずつ核心に導いていただくようなものなんですけれども、自分の中で考えがまとまっていったりだとか、気づけていなかったことに気づけたりできました。とてもおすすめの方法だと思います。

 

佐藤:

コーチングを受けて、当初目標としていたことと最終的に目指すことになったことが変わったんです。当初は「採用ブランディング」ということで、「採用がうまくいくようになるといいね」というところがスタートでした。でも、コーチングを経ていくと「採用ブランディングの確立は最終目標ではないんじゃないか」と思い始めたんです。ちょうど、23年度の新入社員が入るというタイミングでしたので「新入社員の育成をおろそかにしていてはいけない」「採用よりもまずは新卒の受け入れ体制を考える方が優先ではないか」ということがコーチングを通じて見えてきました。その思いが私と宮川の中で共有できたので、DYNAのゴールを「育成まで含めた採用計画」と定めることにしました。

 

そうだったんですね!では新入社員の育成にあたってはどのような目標設定をされたのでしょうか。

 

宮川:

4月の時点で新入社員の2人に「地質調査っていい仕事だな、いい会社だな」と思ってもらえている状態にあることを一番の目標に定めていました。まずは、地質調査が興味深いものなんだということを伝えていくこと。そのことを、既存社員全員を巻き込んで行いました。育成に社員みんなに参加してもらうということは、社員のアウトプットにもつながることから、会社全体のレベルアップを図ろうという意図もありました。また、雑務のような細々とした作業のようなことでも色々とやってもらって、自分が社会に貢献していることを実感してもらいながら、会社にも慣れてもらえるようにしました。

 

―DYNAで作り上げた育成計画を実践してみての手ごたえや、会社として変化を感じられることはありましたか。

 

宮川:

「人材育成は社内みんなでやるものなんだ」ということを社内に浸透させられたのは大きいですね。以前はマニュアルもないような状況でしたが、現在は社員みんなに人材育成に主体的に関わってもらえているという実感があります。

 

佐藤:

会社としても新入社員を迎える前に1日かけて事前研修を行いました。以前は採用することがゴールになっていて、育成はその人の様子をみながら入社後になんとかしよう、というスタンスだったのが、今は「人を採用するので、こういう段階を踏んで、こういう風に育成していきます」と言えるようになりました。そして、それ自体が人材採用の武器になるということに気がついたんです。採用と育成を分けるのではなく、人を採用するから育成のことまで考えるんだと意識が変わっていきました。

―では、そんな採用活動、育成計画変革期に入社された片野さん(2023年4月入社)は実際に入社されてどのように感じられていますか。

片野:

説明会の時点で、楽な仕事では全くないな、ということを理解していました。採用面接でも、自分で考えて新しい事にも挑戦していかないといけませんよ、というようなことをたくさん聞いてから入社したので、入社後に「こんなこと聞いてない!」と感じたり、困ったときに周りに聞きづらいと感じたりしたことはないですね。前もって自分の心の中で準備ができていたので、リラックスして働けていると思います。内定後に食事会や見学会もあったので、社内の雰囲気も含めてミスマッチもなく、会社になじめるかどうかという心配も全くありませんでした。でも入社直後はさすがに緊張していました。(笑)

 

育成を含めた採用計画について、新入社員と相互にフィードバックを行われているということですが、具体的にはどのようにされているのでしょうか。

 

佐藤:

新入社員が新しい環境・新しい仕事についてどう感じているのか会社としても、私個人としても本音を知りたいと思っていました。そこで、1on1ミーティングというのが良いらしいということで、これを機に試してみようということになり、まずは新入社員と相互にフィードバックを行う機会を設けました。最初のうちは毎週1on1、その後隔週で行い、その後社内全体にも広げています。

職場環境のことや、個人的な悩み、ストレスを感じていること、うれしいこと・楽しいことを会社が把握してくれていて、対応してくれるということで、会社も良くなっていくだろう、そして結果的に選ばれる会社になるのではないかという思いで続けています。

 

―お話を聞いていると、みなさんのお人柄や、新入社員の育成をみんなでやっていこうという社内の雰囲気それ自体が、今後中部ウエルボーリング社さんの企業文化、ひいてはブランドになっていくように思われます。

宮川:

DYNAの活動の中で、自社が選ばれている理由を把握するため、新入社員2人に対してうちの会社を選んだ理由をヒアリングしました。すると、入社を決めた理由として「社員の人柄」を挙げてくれました。採用活動において「人柄の良さ」のようなことをアピールするのは難しいものがあるというのは承知で、それでもこの点をアピールできていったら強みになると考えています。

 

佐藤:

正直、一番初めに目標設定していた「採用ブランドの確立」が達成できているかという意味では、まだまだ道半ばで、足がかり・手がかりもつかめていないくらいの段階ではないかと思います。ですが「採用ブランディングの確立」という課題は残り続けつつも、この1年の取り組みを振り返り、そして年々繰り返し、積み上げていったものが結果的に中部ウエルボーリング社の採用ブランドだといえるようになると思います。

 

宮川:

数年後に、新入社員にアンケートを取ったときに「育成プログラムが充実しているのが良い」と答えてもらえるくらいになれれば、会社の強みとして外に向けて「うちは人材育成が充実しています」と言えますよね。そういう形でブランドにつなげていければと考えています。

採用ブランド構築においては、”企業側が発するメッセージと、応募する側が発する言葉が一貫していることはとても重要だ”と、本事業のアドバイザーもお話しされていますが、御社はまさにそれを体現されているように感じます。

 

さて、現在は採用関係のお仕事は宮川さんから片野さんに引継ぎされているということですが、片野さんは入社一年目でありながら、すでに採用担当としてご活躍中なんですよね。入社してからまだ1年弱かとは思いますが、お仕事の様子はいかがですか?

 

片野:

入社一か月後の5月からもうナビサイトさんとの打ち合わせにも出ていました。確かに、総務部の仕事内容にはナビサイトの文章作成などお任せしますとは書いてありましたが「まさか入社直後から!?」とびっくりしましたね。(笑)でもやり始めてみると、学生に近い感覚がまだ残っているので、それを学生の目線で「説明会でこの話をしても面白くないかも」なんて思いながら資料作りに活かしています。私が「学生時代の感覚がまだ生きているうちに頑張ろう」と思える性格だったのを見越して採用していただいたのかもしれません。

広報業務なども宮川から引き継いでいるので、インターンの参加者と交流をしていると自分が先輩から引き継いだものが学生に見てもらえたという実感があって、日々やりがいを感じています。

 

「自社のことを知ってもらう間口を広げたい」と社長の佐藤さんがおっしゃっていましたが、具体的にどんな取り組みをされているんでしょうか。

 

片野:

まず、X(旧Twitter)のアカウントを始めました。万人に知ってもらうためという目的ではなく、説明会に来てくれた等、接点を持つことができた人にフォローをしてもらって、会社を知ってもらうためのコンテンツを作っていきたいと考えています。もう1つは、動画の作成を行いました。先日も大学訪問に行って、授業で動画を流していただけるようにお願いしてきました。

 

宮川:

私はナビサイトで土木系・地質学系の人たちにダイレクトメールを送ったりしましたね。合同説明会など採用イベントにも参加をしていきたいと考えていて、これも片野に引き継がれています。「大学訪問に行く」という目標もあったのですが、片野が引き継いで実現してくれたので、嬉しく思っています。

 

では、今後の採用活動はどんなふうにしていきたいですか。

 

片野:

私もまだ手探りではありますが、大学の研究室などに声をかけて学生が現場を直接見る機会を作りたいです。現場を見に行く前に、地質調査という仕事があって、こんなことがわかって、だから必要とされているんだということを現場見学の前にお伝えして、地質調査のおもしろさを共有してから現場を見てもらえたらいいなと考えています。目的意識を持って見てもらえるようにしたいですね。自分が学生の立場だった時、ただ現場を見るだけでは何もわからなかったので。

 

「採用して終わらず、育成計画も含めた計画と実践を行う」というDYNAで策定された目標を着実に実現されているようにお見受けします。これから、どのようなことを実現していきたいか、会社としてでも個人的な事でも結構ですので、みなさんの未来の展望をお聞かせください。

 

佐藤:

2023年末に中長期的な目標を社内に向けて発表したところです。もともと、経営理念は「人を活かし、人に生かされる会社」―社員一人ひとりに活躍してもらい、社員にがんばってもらうことによって会社も発展していくことができる、というものだったのですが、そこに「公共善をなす」という言葉を付け加えました。会社が潤って終わりではなく、その先の社会全体に貢献して社会に必要とされる存在でありたいと考えています。まだキックオフしたばかりですが、これから社内に周知していくところです。

 

宮川:

この会社が、頼られる会社であってほしいと思っています。何か困ったことがあったら「中部ウエルボーリング社に聞いてみよう」と一番に思い起こしてもらえる会社にしていきたいですね。自分が頑張れるのも、頼られる会社にしていきたいという思いがあるからです。

 

片野:

今はまだ技術職に文系出身者を受け入れるノウハウはないけれど、いずれは文系理系問わず地質学や地盤工学が好きな人にもっと自社の存在を見つけてもらい、興味があれば文理問わず入社できます!と言い切れる採用をして行きたいと思っています。

地質学が好きな人って理系に限らずいるんです。私も文系出身で、実際に地質学や調査についてはこの会社に入ってゼロベースから学んできました。でも、現場に行ったら人と話すのが面白かったりして、この間も社長に「今年は1つでも多くの現場に行きたいです」と話したところなんです。

 

ありがとうございました。最後に、こういった実践プログラムへの参加を検討されているみなさまに向けて、活用方法などのアドバイスやメッセージをお願いいたします。

 

佐藤:

柔軟性をもって参加すれば必ず得るものがあります。当社の場合は、もともとの目標と最終的に設定したゴールは全く違うものになりました。また、先ほども申し上げた通り「採用ブランドの確立」という当初の目標に関しては道半ばであるといえます。そこだけを見ると成果はゼロのように見えますが、そもそもの目標設定がずれていたことに気づき、また、私と宮川との間のイメージの共有が最初にできていなかったということにも気づくことができました。

もし「この時間は採用ブランドの確立をしなければ意味がない」と決めつけてしまっていたら、何らかの答えが出せていたとしても継続して残るものにはならなかったと思います。たとえ議論が違うところに着地したとしても、最初のテーマに固執せず本当に必要なことは何か、どんな会社を作っていきたいかに向き合い、柔軟性をもって参加することによって、それを会社にとって価値があるものにしていくことができますよ。

Intervieweeインタビューイー

佐藤永一朗
中部ウエルボーリング社代表取締役

2014年入社。官公庁を中心に営業活動に従事しつつ現場補助も行う。 社員の高齢化により事業存続が危うくなることを見越し、採用業務を並行して始める。 2018年に経営学修士(MBA)を取得後、2019年より現職。

宮川栞奈
中部ウエルボーリング社三重事業所技術部所属

2019年入社。大学では古生物学を専攻し、恐竜の研究に取り組む。 入社後は技術社員として働きつつ、採用業務にも携わる。 現在は三重事務所勤務となり、三重のことを学んでいるところ。

片野有紗
中部ウエルボーリング社総務部

2023年入社。教育学部卒。総務部採用担当として1年目から採用業務を行う。 学生に近い目線で新しい採用施策を企画し取り組んでいる。 現在は大学の学びを活かした、面白くてわかりやすい会社説明会開催のため奮闘中。